ひざのはなし1

さて、どこから話そうか。

左膝の前十字靭帯を断裂してから5ヶ月が経った。最初はぱんぱんに腫れて、歩くのもままならず、曲げ伸ばしにも相当苦労していた膝も、もうほとんど左右差を感じないくらいに回復してきた。

理学療法士にテストしてもらって、左右の脚の力もほぼ同等に戻ったことが確認され、いよいよ手術をするのなら準備OK、というところまでやってきた。

そう、問題は「手術をするかしないか」の選択である。

医師からは当初の診察で、「ピックルボール、まだしたい?ピックルボールをやるなら手術が必要だけど、ランニングやヨガみたいなスポーツだけなら手術の必要はないよ」と言われていた。前十字靭帯は膝の内部で太ももの骨と脛の骨を繋ぐ膝の安定性を担う靱帯なのだが、日常生活や直線的はスポーツしかしない場合はなくても問題ないという。ただ、バスケットボールやピックルボールみたいに、急な方向転換が必要なスポーツに復帰する場合は再建手術をするのが一般的らしい。私が怪我を負ったのはまさにそのピックルボールをしている最中だったのだ。

5ヶ月前、年の瀬迫る12月、私はピックルボールを初めて1年が経つころで、まさにどハマりしている真っ只中だった。

ピックルボールというのは、テニスと卓球を合わせたようなスポーツで、バドミントンコートの大きさで、ネットはテニスよりやや低く、テニスより小さめの硬いパドル(ラケット)で穴の空いたプラスチックのボールを打ち合うスポーツだ。

その頃は週2回、日曜日の午前中と火曜日の仕事前にピックルボールのオープンプレイに参加していた。体育館にコートが4面貼ってあって、16人まで予約でき、その日に集まった人たちが混ざってプレイするカジュアルなスタイル。日曜日は家族づれやカップル、子供にはベンチでタブレット見せつつ親が参加したりなど色々な人たちが来ていて、私も娘と一緒に参加していた。火曜日は平日の朝なので少し年配の人が多く、大体レギュラーで来るメンバーが決まっていた。

みんなレベルはまちまちなんだけど、そんなことはあまり気にせず、15分ごとにくじ引きでコートを決めてその時々で当たった人たちとペアを組んで対戦する。上手くても、下手でも、初めてでも、あんまり体が動かなくても、それぞれ自分にできることをすれば良いという空気があるのでとてもやりやすい。それに、その時々の組み合わせでしか起きないコラボレーションが生まれるのも本当に楽しいのである。

年齢もレベルも様々だけど、何度も顔を合わせるようになってくると気心も知れてきて、スマッシュ空振りして大笑いしあったり、思いっきり気持ちのいい球で得点して歓喜したり、簡単なミスをして叫び声をあげたり、そこには大人になってから日常ではあんまりすることのない感情表現の場があった。私は自分が大人になるにつれて、負けず嫌いな面や人との競争意識をあまり感じないように、出さないようにして生きているのだということに気づかされた。それを出しても人間関係上あまりいいことはないし、自分も気持ちよく生きられないということを、きっとどこかで学習してきたのだろう。だからスポーツは、そのほんのひととき、そういう縛りから解放されて純粋に勝ち負けに一喜一憂できる、実はものごく貴重なフィールドなのだ。ピックルボールを始めて、こんな風に感情を表に出したのって子供の頃以来かも?いや小学生の頃はもうすでにそこまで出さなくなっていたかもな、と振り返りつつ自分の中にある感情をそのまま瞬時に出すことの気持ちよさに魅了された。

その楽しさといったら中毒性があると言ってもいいくらいだと思う。その頃の私は常にピックルボールの情報を検索していて、オープンプレイがある体育館やテニスコートを見つけては足を運んでいた。一度はオープンプレイで出会って顔見知りになった人とペアを組んで、テニスクラブが主催する大会に出てみたりもした。ピックルボールを始める前までは基本的に引きこもって過ごしていた私が、定期的に外に出かけて人と交流するようになるという、かなり大きな変化を与えてくれるきっかけでもあった。

何といっても手軽にできるのも魅力で、例えばテニスだと、陽に照らされながら広いコートを駆けずり回らなくてはならず、気力と体力を要求されるのに対して、ピックルボールはコートも狭く、大抵は室内で、4人で遊びのプレイをするのであればそんなに走り回ることはない。特に、中学・高校とテニス部に所属していて、その後めっきりテニスから離れていたけど、いつもなんとなくやりたいなあ、でも体力的に無理そうだなあと思っていた私には願ってもないスポーツだった。クリスマスを義理兄の家で過ごした一昨年の12月、裏庭にピックルボールのネットが張ってあったのが私とピックルボールとの貴重な出会いであった。

そんな私みたいに、ピックルボールの魅力に取り憑かれる人は多いらしく、アメリカ生まれのこのスポーツは順調に世界中に広まりつつあるらしい。ここニュージーランドでもプレイできるところがどんどん増えていっている感じがする。だが医師が言うには、

「特に年配の人でピックルボールをする人がたくさん増えているんだけど、怪我もものすごく多いんだよね。怪我に関して言えばテニスよりも多い。」

とのことで、確かにピックルボールはハードなスポーツでもある。プロの試合なんかを見ると球のスピードが見えないくらい速く、瞬発的な動きが要求される場面も多い。怪我が多いのもうなずける。

私がピックルボールを初めて間もない頃は、1時間半のオープンプレイが終わる頃には息も切れ切れ、顔は真っ赤、全身汗だく、翌日からしばらくは筋肉痛という状態だったのを思い出す。もっともそれまで大した運動をしてこなかったこともある。あとは私が強打者ではなく、動き回ってボールを拾うのが楽しいというタイプなので(よくスライディングしてジャージの膝にはいつも穴が空いていた)人一倍運動量は多かったかも知れない。

そうしてピクルボールにハマってちょうど1年が過ぎた頃、今直面しているこの左膝の怪我を負うことになるのであーる。今回は膝の怪我についてまとめようと思って書き始めたのだけれど、それよりもピックルボール愛が炸裂する内容になってしまった気がするので、冒頭の「手術をするかしないか」問題に私の出した決断について、次回からまた書いていこうと思う。

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